金色の鎖

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Hは崖っぷちで瞳を閉じて深く深呼吸をした。 そして、崖から身を投げた。 ドサッ 現実に戻ったHはベッドから床に落ちただけだった。 ビックリしただけで、かすり傷一つ負ってはいなかった。ため息を吐きながらベッドに戻った。 今、Hの部屋は荒れ果てている。 壊れた扇風機、そこら辺に舞い散るドライフラワーの欠片達、中身が散らばった鉛筆立て。タンスの上は投げつけたティッシュ箱によって、鏡やアクセサリー入れがグチャグチャになっている。全部Hのしたことだ。 その惨状から二日経っているが、部屋を片付ける気力も、もうこれ以上生きる気力も、湧いてはこない。 二十年、Hは強迫性障害と戦い続けてきた。 あまりに辛すぎて、初期の頃の記憶はおぼろ気だ。何歳の時に何があったか、自分の年表すら作れない。記憶はあっても、どの出来事が前で、どの出来事が後なのか思い出せなくなっている。断片的な記憶しかない。 今は一週間前に✕✕回目の誕生日を迎えたことくらいは記憶に残っている。 今もHは様々な鎖に縛られている。 「ちゃんとしなくちゃ」という鎖。 「0か100でしか物事を考えられない」鎖。 「自分自身を好きになれない」鎖。 そして鎖の縛りに耐えきれず、何度も心の骨が折れて、全てを終わらせようとした。 でも、失敗に終わった。 どうせ鎖に縛られる人生なら 今は金色の鎖に縛られたい。
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