俺の知らない、おまえとあいつ。

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「わかった!お兄ちゃん、湊さんと喧嘩したんだ?」 「だったら、なんなんだよ?」 妹の沙優里は、家族で唯一、俺たちの関係を知っている理解者だ。 というより、俺と湊が恋人になれたのも全ては沙優里のおかげで、今もこうして俺たちのことを応援してくれている。 「だって、お兄ちゃんがおかしくなるの、絶対湊さんが絡んだ時だけだし?お土産って持ってきたケーキも湊さんが大好きなケーキだし?なんかあったなんて、言われなくてもわかりますー!」 「ああ〜はいはい。昨日は本当にすみませんでした。ほら、もう仕事の時間だろ?」 「うわ、本当だ。じゃあ私、もう行くから鍵だけちゃんとしてってよ?あと、早く仲直りしなよ〜」 嵐のようにドタバタと家を出る妹の後ろ姿に、昨日の高校生といい、沙優里といい、女性から随分と心配されてるなと思い出してはつい、笑みを浮かべていた。 その言葉に後押しされたおかげで、俺は覚悟を決めて湊に返信のメッセージを打ち込んだ。 『昨日は連絡もしなくて本当にごめんな。沙優里のとこに泊まってた。これから帰ります。それと、今日帰ったら話したいことがある』 湊が俺に嘘をついてまであいつに会ってた理由、あいつとの関係。 聞きたいことも言いたいことも、正直、山のようにあって、湊を前にしてもうまく伝えられるかは定かではない。 けれこのまま、あいつに湊を奪われる様を指を咥えて見てるだけなんて、それこそ俺らしくないんだ。 あいつの笑顔を一番近くで見ていいのは、俺だけだ。 祈るように俺は、妹の部屋を後にしたその足で湊に振る舞うための料理のために、行きつけのスーパーに寄ることにした。
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