12人が本棚に入れています
本棚に追加
どうせ終わるなら、俺の手で。
「ただいま〜。あ、いい匂い」
「おかえり、湊。今日は早かったんだな?」
「あ、うん。最近、ずっと遅くてごめん」
湊の大好物、カレーとハンバーグを作りながら待つこと数時間。
予想していたよりも早い帰宅の今は、夜の8時。
少しだけ、嫌味な言い方になってしまったことは、未熟な俺の反省点だ。
「「いただきます」
ただ、2人で食卓を囲んでいるだけ。今までと変わらない光景。
それだけなのに、随分と懐かしい気がして、湊の好みの甘口カレーだというのに、涙が出てきそうなのは俺だけなんだろうか。
「煌太さん?食欲ないの?」
「いや、あるよ。ただ、久しぶりに湊とメシ食べた気がして、なんとなく嬉しいっつーか」
「そう、だよね。最近、俺、全然煌太さんと一緒にいられなかったから。ごめん」
不躾な俺の発言が食卓を険悪にさせてしまって、和やかな雰囲気から一変、気まずい空気が俺たちの間に流れ込んだ。
「いや、そうじゃない。湊、俺こそごめん」
「煌太さんは間違ったこと言ってない。俺が全部、悪いから」
慌てて弁明する俺に、俯きながら懺悔をする湊。
湊の笑顔が見たかっただけなのに、どうやら未熟な俺はそんな願いすらもう、叶えてはやれないようだ。
スプーンを皿に置く音が、やたらと響いて聞こえた。
「湊、司って誰?」
俯いていた顔を勢いよく上げた湊の目に、明らかな動揺が走る。
どうしてとかなんでとか、そういった言葉が湊の潤んだ瞳を通して俺に語りかけてくるようだ。
「どうして、煌太さんが司のことを?」
「昨日、湊と司って奴が話してたの、偶然聞いちゃったんだよな。おまえのこと、好きだって言ってなかった?」
買い物をしながら、料理をしながら、何通りものシュミレーションをしていたのに、俺の言葉が鋭い刃のように湊に突き刺さる。
「司が?まさか、そんな。聞き間違いじゃない?」
湊がぐっと唇を噛んだことも、わざとヘラヘラと笑ったことも、俺は全てをしっかりと目に焼き付けていたはずなのに、そうやって誤魔化そうと必死な姿が俺の何かをぷつんと切らしてくれたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!