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「なるほど。今日は映画館か」
「暗いし、誰かに見られても誤魔化せるだろ?」
わざわざ、レンタカーを借りてまで隣町に来るのにはある理由がある。
今から5ヶ月前くらい、ちょうど蒸し返るくらいの暑い日のこと。
湊の不安な気持ちに気がつけなかったどころか、それをただの嫉妬だと鬱陶しくさえ思っていた俺は、最愛の恋人を失いかけてしまったんだ。
俺が慣れないサプライズをしたことが発端ではあったけど、その一件をきっかけに俺たちはお互いの気持ちを再確認して、ある約束を決めることにした。
それが今日のデートであり、月に一度のデート(しかも湊の主導)だ。
俺と湊が住む街は、良くも悪くも人との距離が近い。
街を出歩けば知り合いの一人や二人には必ずと言っていいほどに出会すし、恋人だからといって手を繋いで歩けば次の日には噂になるってことは、言われなくても容易に想像ができてしまう。
『俺たちが付き合ってるって、俺は知られても構わないんだけど?』
『そんな簡単な問題じゃないんですよ、煌太さん!もし、あいつに知られでもしたら』
『あいつって、誰だよ?』
『いや、とにかく!今はまだ、秘密の方がなにかといいんじゃないですか?特に煌太さんはみんなのお巡りさんなんだし!』
その時の湊があまりにも必死に見えたし、悔しいけど湊の言う通りでもあったから、何も言い返すことも問い詰めることもできなかった。
たとえ、湊とのことが街の人にバレたとしたらどうなるのか。
ましてや、俺の家族にバレてしまったら、きっと俺以上に湊が辛い思いをするだろう。
湊は多分、そんな俺の気持ちがわかりきっていたんだ。
「煌太さん!早く行くよ!」
「待てよ、湊!」
だからこそ、湊が望むことを俺は全部、おまえにしてやりたくて仕方ない。
そうすることでしか、おまえを繋ぎ止めておく方法を知らないんだ。
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