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「どうした、湊。なんか見たいものあったか?」
「いや、ただちょっと…いいから煜太さん!ここ来て!」
もどかしそうに言う湊が言うように、とりあえず指定された場所に立った。
「あ、すみません!いいですか?」
すると、湊がツリーの真向かいにいた女性二人にそう話しかけ、自分の携帯を差し出した。
おそらく、二人の写真を撮ってもらうためだろうが正直、驚いた。湊は大胆なようで実のところ臆病なのだ。
外に出ることを恐れているのは湊だ。俺たちの関係上、知られてはまずいと思っている。
確かにその通りかもしれない。時代は寛容になってきたとはいえ、九歳も年が離れている上に俺たちは男同士だ。
湊はきっと、俺が警察官だということも気にしているのだろう。
そんな湊が、だ。自ら俺たちの関係を顕にしようとしているなんて。
「煜太さんお待たせ!写真、撮ろ?」
「…ああ、いいよ」
気取って言ったセリフがくぐもっていた。
思えば俺は、湊にもらってばかりだった。恋や愛など信じてもいなかった俺に、無条件に与えてくれた。笑うことも泣くことも怒ることも、全部。
ならば俺は、どうなのだろう。俺は湊、お前に返せているのだろうか。
「じゃあ撮りますね」
「お願いします!煜太さん、ほら!」
好きだとか愛してるだとか、そんな気持ちをお前にも返したい。
湊に言われるがままに腕を組み、身を寄せ合う。そしてー。
「ちょ、ちょっと!煜太さん!」
「…ダメだった?」
唇が触れた頬を慌てて抑え、湊が言う。
湊、俺は少しでもお前に愛を返せているのだろうか。
この愛が決して重くならないように軽すぎないように、伝わるように。
この先も湊とずっと一緒にクリスマスツリーを見上げられますように。
この世界にサンタクロースがいるのなら俺はただ一つ、それだけを願うだろう。
「湊、メリークリスマス」
「…うん!メリークリスマス!」
寒い空気に頬を赤らませ、満面の笑みを携えた湊が可愛すぎる。
そう思いながら俺は湊の手をぎゅっと握っていた。
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