気が付かないフリなら、喜んで。

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「え?なに言ってんだよ、煌太さん。こんな時間まで起きてたから、疲れてんじゃないの?」 「疲れてなんかないよ。ただ、俺が研修から帰ってきてもう1週間も湊とまともに会えてないし、話もしてないんだ。寂しいに決まってんだろ?」 正直に俺が気持ちを言葉にして伝えても、湊は俺の目を見ようとはせずに、俺の手に握られているマグカップばかりを見つめている。 まるで、目の前の俺がマグカップにでもなったかのように、そればかりを見つめる湊に俺は、あからさまな嫉妬心を感じる。 気が付けば俺は、あと一口ほどのコーヒーが残っているマグカップを荒々しい音を立てて、テーブルに置いていた。 そして俺は、犯人を逮捕する勢いのように、わずか1メートルほどの距離にいる湊をきつく抱きしめる。 「なんなんだよ、おまえ。俺ばっか、おまえに会いてーみたいじゃん」 「…俺だって」 湊の腕がよそよそしくも、俺の背中をしっかりと抱きしめ返す。 息もできないほど強くもなく、弱すぎもないその力が、湊だという事実を感じさせてくれているはずだ。なのに、湊の首筋から香る清潔な匂いが俺をまた、不安にさせる。 「湊…俺のこと、好き?」 本当は、全力で問い詰めたくて仕方なかった。 どうして、1週間もただの友達のところに毎日、通い詰めてるのか。 どうして、ただの友達のところに行ったはずなのに湊の身体から風呂上がりの香りがするのか。 それでもそうしなかったのは、俺が怖かったからだ。 もし、湊が俺を拒絶しようとしていたなら、それを湊の口から聞くことになるなら。 それなら俺は喜んで気が付かないフリをしてやるだけだ。
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