気が付かないフリなら、喜んで。

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「煌太さん、好きだよ。好きに決まってんじゃん」 俺が湊をきつく抱きしめているせいで、湊の声がこもって聞こえた。 けれどはっきりと聞こえた俺を好きだと言う言葉。 たとえ湊の本心がどうであれ、その言葉だけが今の俺を安心させてくれる。 「だよな、ごめん。変なこと聞いて。最近、湊に会えなくて俺、ちょっとナーバスになってたのかも。もう遅いし、さっさと寝るか」 「あ、そう、だよな」 きつく抱きしめていた腕から、湊を解放すると俺は何事もなかっかのように湊の顔を見ずにベッドに潜り込んだ。 そして、眠れるはずのない頭でどうしようもならないことを考える。 湊が何か言いたそうに口籠もっていたことも、もちろん気が付いていた。 湊とお揃いで買ったネイビーの寝巻きの裾を、湊の腕が名残惜しげに掴んでいたことにも、もちろんだ。 けれども今、その事実をはっきりと認めてしまうわけにはいかないんだ。 もし、認めてしまったら俺はきっと、湊が辞めてくれってどれだけ訴えたとしても、止めることなく抱き潰してしまいそうだったから。 いつものように俺がダブルベッドの左側で身体を丸めていると、そっと湊が俺の右隣に潜り込んできた。 「煌太さん…もう、寝た?」 「いや、まだだよ」 「…」 「眠れないのか?こっち、おいで、湊」 湊がゆっくりと俺の胸に潜り込んでくる。 「煌太さん、俺」 「いいよ、言わなくて。もう寝ろよ。おやすみ、湊」 トントンと、まるで赤ちゃんを寝かしつけるようにゆっくりすぎないリズムで俺が湊の背中を撫でてやる。 なんとなく、俺の胸がしっとりと湿っていた気がしたが、俺はそれにも気が付かないフリをして、目を瞑ることにした。
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