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奪われるなら、その前に。
あれから1週間。
「って、聞いてるの?お巡りさん!」
「え?ああ、ごめんね。なんだっけ?」
「それ、何回目?最近、変だね。なんかあったの?」
この小さな街では、交番という存在は時に心の交番の役割を果たすようだ。
俺がこの交番に赴任してからもう3年。
学校帰りの夕暮れ時にふらっと立ち寄っては思春期ならではのいろんな話を聞かせてくれる。
テストが嫌だとか、数学の先生が嫌いだとか、大抵は愚痴だけど、家族の悩みとか深刻な問題を抱えている子も中にはいるようだ。
毎日のように顔を合わせていれば今の俺がいかに腑抜けているかなんて、一発お見通しだろう。
湊はあの日からも帰宅は遅く、朝も早い。
必然的にすれ違い生活ってわけだが、意気地なしの俺は見て見ぬフリを貫いてしまっている。
「そういえばさ、うちらの話ばっかでお巡りさんの話聞いたことないよね?」
「たしかに!いつも聞いてもらってるんだから、今日くらいはお巡りさんの話も聞いてあげるよ!」
高校生の勢いは結構、すごい。
ついさっきまでは自分たちのお悩み相談室だったはずなのに、いつのまにか俺のお悩み相談室にすり替わっている。
しかも、キラキラとした眼差しで。
「いや、お巡りさんは何もないから。気を遣ってくれてありがとう」
「ええ〜大人だからって嘘ついてるの、ウケる」
「大人が誤魔化す時って、恋愛か仕事の悩みってお母さんが言ってたよ〜」
見事に、的中だ。やっぱり、年上には敵わない。(高校生の母親は俺よりも年上だと思う)
この歳になると素直に悩みを打ち明けられないものでもある。
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