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彼女から連絡のある時は決まって、小咲不動産の物件や関連会社による怪奇案件の依頼絡みだ。とすると、先ほどの電話の内容には違和感を感じたが、「どんぐりが落ちてくる」という内容で仕事中に電話をされても、「どんぐりは落ちるものでしょう」としか言いようがない。
その時は、「翌朝にでもメールすればいいか」くらいに考えていた忌一だが、それをすっかり忘れてしまったのに気づいたのは、それから三日後のことだった。
夜勤を終えて帰宅したばかりの土曜の朝、忌一の伯父であり茜の父親から、
『茜が三日間寝込んでいる。うわ言で忌一君を呼ぶんだが、何か知っているかい?』
というメッセージを受信したのだ。
忌一は取るものも取り敢えず、茜の家へと急行するのだった。
* * *
茜の家は二階建ての一軒家で、十五年以上前の小学生の頃に一度だけ、忌一は訪れたことがあった。十五年という月日を経ているとは言え、ここまで変わるものだろうかと、その家の変貌ぶりに忌一は思わず二三歩後退る。
何の種類かはわからないが、家全体が謎の植物に覆われていて、壁も窓も屋根も殆どが見えなかった。そこに家があると知らなければ、住宅街に手つかずの小高い山が存在しているようにしか見えない。
ツタで覆われた家というのはよく目にするが、そんな生易しいものではなかった。よく見ると、縄のような枝が家全体を何重にも締め付けているようで、それを大量の葉が隠している。
以前の記憶を辿り、玄関扉があるらしき場所を探していると、忌一の足を何かが引っ張った。見れば庭に敷かれた砂利の下から植物の根のようなものが這い出し、忌一の足に絡みつこうとしている。その気配に気づいた桜爺は、ジャケットの内ポケットから「忌一、これはただの植物ではないぞ」と忠告した。
急いで足を上げるが、絡みついた根がピーンと引っ張られるだけで、忌一の足首から一向に離れようとしない。腿裏を両手で掴んで更に足を引っ張り上げるが、地面から次々と別の根が這い出し、忌一の足へ絡みつこうとする。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……」
「我ガ喰オウカ?」
ジャケットの袖口からニュルンと鰻のような頭が飛び出し、忌一にそう訊ねる。忌一の第二の式神、龍蜷だ。思わず「た、頼む!」と懇願すると、龍蜷の身体がさらにニュルニュルと伸び、足首に巻き付いた根に噛み付いてそれをむしゃむしゃと頬張る。
自由になった足にホッとしたのも束の間、忌一の周りの地面からは再びいくつもの根が這い出し、忌一を拘束しようと足首や体目掛けて絡みついてくる。それを龍蜷が片っ端から噛みつくが、これではキリがない。
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