アレガ落チテクル

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「龍蜷、おぬし胸焼けしてしまうぞ。ここはわしに任せるのじゃ」  そう言うと桜爺は忌一の肩まで登って胡坐をかき、印を結んで何かを唱え始めた。すると、忌一の身体を見えない膜のようなものが包み込み、身体に巻き付いた根たちが緩んで離れ、忌一の身体に一定以上近づけなくなる。 「これは?」 「結界のようなものじゃな。これで暫くは大丈夫じゃろう」 「ありがとう、じーさん」  すると、袖口で龍蜷が「ゲプッ」と喉を鳴らした。忌一は「龍蜷もありがとな」と、彼の丸い頭をひと撫でする。  改めて家に向き直ると、玄関らしき場所からじっと忌一を訝し気に見つめる伯父と目が合った。 「伯父さん、お久しぶりです」 「忌一君、一体そこで何してるんだい?」   いつから見ていたのかはわからないが、今の言葉で伯父にはこの家を覆う謎の植物が全く見えていないのだと理解した。おそらくこれらは、普通の人間には見えないものが見えてしまう忌一にしか()えていないものなのだ。  あははと乾いた愛想笑いで誤魔化すと、「茜は大丈夫ですか?」と話題を逸らしつつ、忌一は招かれるままに家の中へと入って行った。 *  忌一の()には、家の中もちょっとしたジャングルのように視えていた。茜の部屋は二階の角にあり、進めば進むほど縄状の枝が集まってきている。部屋に近くなればなるほど、枝は段々太く、逞しくなっていた。 「三日前から急に茜の元気が無く、朝になっても下へ降りなくてね」  その日、元気のない娘を心配はしていたが、伯父は普段通りに出勤したという。昼間家に居た伯母によれば、「お腹が空いたら降りておいで」と茜に声を掛けていたが、その日はずっと部屋から出てこなかったと。夜に伯父が帰宅し、彼女の部屋へ入ると… 「茜は自力で身体を起こすことが出来くなっていてね。せめて食事くらいはさせようと、私も茜の上体を起こそうとしたんだが、情けないことにピクリとも身体を持ち上げることが出来なかった……」  伯父は弱りきった顔で振り返る。既に茜の部屋の前へ到着していた。 「いくら歳を取ったとは言え、娘の上体すら起こせないなんてことがあるかい? そんなのおかしいじゃないか。それで翌日、翌々日と様子を見たが、全く改善する見込みがない」  用意された水分を補給するだけで、茜は他に何も口にしなかった。そしてその水分は何処へやら、三日の間一度もトイレに立っていないのだという。流石にこれはおかしいと救急車を呼ぼうとしたが、茜から「その前に忌一を呼んで」と懇願されたらしい。
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