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部屋の扉を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。家中にはびこっていた枝がこの部屋に集まり、茜の身体をベッドに括り付けるかの如く何重にも巻き付いていたのだ。
「うわぁ……これは凄いな。どうすりゃいいんだか……」
思わず呟くと、部屋の入口で見守っていた伯父が「凄いって?」と心配そうに訊ねる。
伯父が忌一の能力をどこまで信用しているのかは疑問だったが、とりあえず以前に二年間だけ陰陽師の修行をしたことは伝わっているはずだ。何故なら、数年間音信不通だった茜と再会した時、彼女がそのことを知っていたのだから。忌一の養父と実の兄弟である伯父は、連絡を取り合っているのだろう。
実際のところ、普通の人には見えないものが視えるというだけで何も出来ない忌一だったが、茜の勤め先の怪奇案件をいくつか解決しているし、意を決して「少しの間だけ、茜と二人きりにして貰えますか?」と提案してみた。
「どうにかなりそうかい?」
「まだ何とも。でも何とかしてみます」
そう言うしかなかった。何とかするのはいつも忌一の使役する式神なのだが。
何か言いたそうで、でも何も言えないような顔で沈黙していた伯父は、「わかった。頼んだよ」とだけ言うと、忌一の肩にポンと手を置いて、二人を残して部屋を出て行った。
「さて」
ベッドに近寄り片膝を付くと、忌一は茜にどうしてこうなったのかを問いかける。身体は動かせないが辛うじて意識のあった茜は、ポツリポツリと今まで起きたことを話し始めた。
「それであの時電話してきたのか……」
「そうだよ。あの時忌一がちゃんと話を聞いてくれてたら……」
「それは……ゴメン」
茜の頭にそっと手を置き、謝罪の意味を込めて優しく撫でる。いつもならこんなことをしたら、すぐに手を払うか文句の一つや二つ飛んできそうなものだが、謎の植物に身体を拘束されているせいか、恥ずかしそうに、でも気持ち良さそうに茜は瞼を閉じた。
(今なら簡単にキス出来そうだな……)
そんな邪な想いが見透かされたのか、肩口から「あまり悠長にしている暇はないぞ、忌一」と桜爺の諫める声が聞こえた。「どういうこと?」という視線を送ると……
「先ほど茜殿の父上が言うておったではないか。茜殿は水分だけを取り、排泄をしておらぬと。おそらくこの植物は、茜殿から養分を吸い取っておるぞ」
「どうすれば……」
「どんぐりを見つけよ。元凶はそやつじゃ」
どんぐりの居場所は、茜の話からすぐに検討がついた。ベッド脇を探ると、小さなゴミ箱から握り拳ほどの太さの木の枝がいくつも這い出している。
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