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時折は健常に戻り、いつもの光子になる。
老後は夫の遺産でなんとか生活出来る見込みだが、今まで通りの裕福な暮らしは無理だ。遺品を整理してお金に変えようと思ったが、愛していた夫の痕跡までもが消えそうで断捨離は不可能だった。
それにも増して溺愛していた豆柴のマメちゃんが夫の助手席で一緒に逝去した事は絶望以外の何物でもなく彼女をとことん苦しめた。
光子には親戚もなく天涯孤独だった。慕ってくれる友人は多いけれど、それは家の外の世界の話だ。独りでは長く寂しい夜を耐えられない。
もう犬は飼わないと決めていた光子だったが、自分でも知らぬ間に地域の犬猫譲渡会に足を運んでいた。
衝撃的な出逢いがあった。ゲージの中の豆柴の仔犬は、毛並みも鳴き方の特徴も雑種具合も不細工さもマメちゃんの生まれ変わりだと思わせる根拠があった。絶対の自信があった。
光子は譲渡を申し込み、必要書類を揃えて面談も終えたが結果は「否」だった。
アルツハイマーの症状のある独居初老未亡人には飼う資格が無いらしい。それは理解出来たが、光子はどうしても諦められなかった。
次の譲渡会も、その次もあの豆柴雑種仔犬は貰い手がつかなかった。
光子は主催団体の代表に泣きながら懇願したが無理だった。
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