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傍らでその姿を見た房代は、出来ることならば自分が柴犬を貰い受けてでも光子に飼わせてあげたかったが、来月に長女が出産後に初孫を連れて暫く里帰りするからペットとの同居は無理だった。他の家族の皆は揃って動物嫌いだし自分も犬は苦手だった。そもそも嘘の吐けない超真面目堅物な光子は譲渡会NPOを騙すようなやり方は絶対に認めないだろう。
他に光子の寂しさを癒す方法を考え続ける房代だった。
「山歩きしましょうよ光子さん」
房代自身は一回たりとも軽登山なぞ経験した事はなかったが、光子が生前の旦那様と手を繋ぎ仲睦まじく出掛ける姿を何度も見掛けて羨ましく微笑ましく思っていた。
とっても小さな可愛らしいオバさんである光子に比べ、昭和の元女子プロレスラーだと言っても疑われないだろう巨漢の房代に、立派な体格だった光子の亡き伴侶の遺したアウトドアウエアは驚くべきぴったりサイズだった。
光子はグロースターターの古い蛍光灯のように、点いたり消えたりする記憶の中で、愛した彼が帰ってきた錯覚に陥り、山登り姿の房代に縋って歓喜の嗚咽をした。
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