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翌日、お医者さんは約束どおり、不思議な実を領主さまのところへ持って行きました。 領主さまは興味深げに不思議な実を見て、 「ほう、こんな実が村になっておるのか」と言いました。 「ええ。聞くところによると、森のなかの一本の木になっているようです。はたしてこの不思議な実を、食べていいものとするか、それとも食べてはいけないものとするか、その判断はわたしの手には余ります。なので、領主さまに決めていただきたいと思います」 「しかし、ネズミに食べさせても問題なかったのであろう? ならば人間が食べてもよいのではないか」 「そう簡単に断言はできないのです。たとえば、人間はタマネギをおいしく食べますが、イヌやネコには毒になります。ネズミが食べて安全だからと言って、人間にも無毒とは限らないのです」 領主さまはまゆげのあいだににしわを作りました。 「むむ……そんなことがあるのか。この不思議な実はとてもよいにおいがする。もし食べてもいいものならば、きっと我が領地の名産品となろう。さすれば徴収できる年貢が増えるかもしれぬ。しかし、毒の実だった場合、領民を多数死に追いやることになるかもしれぬ。その場合、わしが国王さまから責任を問われて罰せられるかもしれん」 「さようでございますか」 「来週、わしは国王さまに拝謁することになっておる。わしには判断できないことなので、国王さまのご聖断を仰ぐことにしよう」
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