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王立アカデミー研究所の主任博士は、不思議な実を前にして、困っていました。 遠く東方で書かれた文献にあたっても、この不思議な実がいったい何なのか、はっきりしないのです。研究所には百人に及ぶ研究者が所属していますが、誰一人この不思議な実を見たことがある人はいませんでした。 わからない以上、自分たちで調べるしかありません。 研究者たちは、不思議な実を小さく切り取り、煮たり焼いたり薬品と反応させたりしながら、毒が入ってるのかどうか、調べました。 しかし、毎日毎日実験しても、確かなことはわかりません。 やがて、すべての実験をやり尽くしたころ、主任博士はとうとう、 「こうなったら、実際に食べてみるしかない」と言いました。 研究者たちは困惑しました。毒が入ってないと確定していない不思議な実を食べたい研究者などいません。 しかし、国王さまからは、早く結果を出せという命令が頻繁にやってきているのです。もう時間はありません。 研究者のなかから、決死隊が結成されて、五人の研究者が、不思議な実を齧りました。 すると、食べた研究者たちは、とたんにもがき苦しみ始めて、床の上をのたうち回りました。 そして、ひとり残らず死にました。 やはり、この不思議な実は毒入りだった。主任博士は国王さまにそう報告しました。 国王さまは、 「それはたいへんだ。研究者たちの犠牲を無駄にしてはならぬ。役目、ご苦労であった」 そう言って、さっそくこの不思議な実を食べてはならないという布告を出しました。 そして軍隊に、その不思議な実をならしている木を焼き払うよう命じました。
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