万年筆が繋ぐ恋

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「笛子さんの好きそうな記事があったから、切り取っておいた」  昨夜、夫からもらった新聞記事を手に取って、こんなものどうでもいいのにと思いながら眺めていた。あまり聞いたことのない小説家のインタビュー記事だ。笛子は文字を目で追ったが、内容はまったく頭に入ってこない。ただ、大きな写真が目についた。白い便せんの上に置かれた黒い万年筆の写真だった。  笛子は顔をしかめてコーヒーをすする。万年筆に、良い思い出はなかった。若い頃、好きでもない男性から興味のない万年筆をプレゼントされ、周囲から二人は恋仲だと不本意に騒ぎ立てられて、たいそう嫌な気持ちになったことを思い出していた。 「これ、モンブランの万年筆なんだよ」  そう自慢げに言った贈り主の表情が脳裏に浮かんだ。モンブランのことなど知っている。それが高級で多くの人が憧れるものであることも。しかし、笛子はその男のことが好きではなかった。好きだと勘違いしていただけだった。手を握られたことすらなかったので、幸いだった。今、何をしているのか、まったく知らない。
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