0日目 新しい家族

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0日目 新しい家族

 8月1日、晴れのち曇り。  僕が虫取りから帰ってくると、父と母は返事をしませんでした。  古びた家はとても蒸し暑く、エアコンなんて全く効きません。なので、すぐに異臭を感じ取れました。僕は歩いて行き、最も異臭が強いリビングにいきました。  そこで見た光景は両親が空中に浮かんで、虚な目をして舌を出して糞尿を撒き散らしていました。  僕の視界はそこで真っ暗になりました。  次に気づくと、病院にいました。僕の手の中にあったのは、日記帳とペンだけでした。  僕は、今日のことを思い出して、文字にしました。お巡りさんがやってきて、事情聴取をされましたが、僕は言葉を出さずに無言を貫き通しました。知らない、見ていない。ショックを受けた子供と判断されたのか、病室に帰されました。  8月2日、雨のち曇り。  土砂降りの雨が降りました。  施設の人間がやってきて、僕を引き取りにきました。僕は愛想をよく笑っていました。 「名前はなんていうの?」  おばさんはそう聞いてきました。 「葉隠湊人って言います」  僕はそう答えた。おばさんは自己紹介をしていましたが、車に乗っていたのでエンジン音で聞こえませんでした。なので、おばさんと呼ぶようにしました。おばさんは宗教じみたことを言っていました。 「みんな平等、みんな同じ痛みを持っているのよ」  聞き返したかった。  じゃあ、僕のこの虚しさはどこからくるものなのかと、強い怒りを覚えました。ですが、僕は心を大人にして、無視を決め込みました。  八月三日、曇り。  施設に行ってから、僕は年上の少年に殴られたり、蹴られたりしていました。  理由は、日記をつけていて気持ち悪いというものだった。  弱いものが殺され、強いものが生きる。それが普通なんだと、僕は思いました。  だから、僕は年上の少年を殴って、首を絞めました。少年は涎を垂らして叫んでいました。  僕も大声を出して、叫んでいました。  僕が悪いんじゃない、僕は悪くない、だからなぜ僕だけが責められるのかわからなかった。僕だって痛いめを見ていたのに、なんでみんな僕を悪者にするのか。  その日以来、僕はみんなから避けられました。  僕は誰も信頼しないようにしようと思いました。  僕は、おかしい人間なのかもしれない。  だったら、関わらないでほしい。  9月29日、晴れ。  僕を引き取るという人達が現れた。  時間をかけて養子という形をとった。それまで日記に触れられなかったので、書けなかった。  僕は、雪村家の人間になることになったので、雪村湊人という名前になる。車の中に入ると、僕より少し年上のお姉さんが座っていた。  黒いショートカットに、茶色い目。秋っぽい洋服を着ていて、可愛らしいという印象が残る人だった。 「私、雪村梅って言います。あなたの名前は?」 「……葉隠湊人って言います。僕に関わらない方がいいですよ」  素気ない態度をとってしまったが、これが一番いい。日記をぎゅっと抱きしめていると、梅さんは僕の日記に指差して言った。 「それは?」 「僕の日記です。なんですか、馬鹿にしたいんですか。どうぞ、お好きに馬鹿にして」  梅さんはキョトンとした顔をして、僕の顔を見つめて言った。 「なんで馬鹿にしないといけないんですか? 日記をつけるなんて素敵じゃないですか。私、日記つけられないタイプなので……、3行で終わっちゃうんですよね」  と笑いながら言った。  僕は不思議な気持ちになった。  心が温かくなるような、そんな気持ち。  初めてかもしれない、こんな僕を否定しないでくれたのは。  変な人。  父は運転席に座って、母は助手席に座っていた。  こんな自分でも家族になれるかな。  そう思っていることを、ここに記そう。
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