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鎖に繋がれた奴が見つかれば、俺もタダでは済まないだろう。タイムリミットは今日一杯だ。俺は星野に電話をかける。カフェで別れた翌日の、時刻は午後4時44分。ワンコールで繋がった。
「あ、星野君。昨日はごめんね、友人が失礼なことをして。今日もよかったら同じカフェで––––」
「夢二さん、今日は僕のコレクションをお見せしたいのですが。ちゃんとキャンバスに描いたものを」
初めて聞く真剣な声。絵で食っていきたいというのは嘘の筈なのに、この違和感は一体なんだ。俺は伝えられた星野の家へと向かった。
安いアパートを想像していたのに、着いた先には立派な戸建てがそびえ立っていた。一人暮らしと聞いていたが…… 呼び鈴を鳴らすと、少しの緊張を携えた星野が出迎える。
「ご足労いただきありがとうございます。どうぞ」
家に通されると、まず目に入るのは賞やトロフィーの数々だった。
最優秀デザイン賞
第47回文藝賞大賞
全国馬術大会20年度優勝
全日本タイピング大会準優勝
数え出したらキリが無い。その全てが星野聖一のものだった。
「星野君、下の名前って……」
「聖一です」
「君は何者なんだ?」
その質問に答えるように、星野はある部屋の前で足を止め、ゆっくりと扉を開いた。そこには無数の絵があった。コレクションを見せたいという話は本当らしい。
部屋の奥に一際大きなキャンバスが布を被って鎮座していた。彼がゆっくりとその絵に近づくので、俺も続いて中へ入った。
「僕は、画家を目指すただの一般人ですよ」
「ここにある絵を見る限り、かなりの腕前とお見受けするが。これを世に出せば、画家一本で十分食べていけるよ」
「僕が画家? たった1枚の絵も完成させられないのに?」
そう言って星野は件のキャンバスの布を外した。そこには夕焼け空に照らされた、もう1人の俺がいた。キャンバスの右下には鉛筆で走り書きがしてある。
『No.13 夢泥棒』
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