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星野は泣きながら何度も頭を下げた。時間の無駄だ、俺は今日死ぬのだから償いたいのなら絵を完成させろと言い聞かせると、やっと筆を走らせた。
「夢を抱いたら死ぬなんて、知っていたら僕……」
「俺は今最高に幸せだぜ、生まれて初めての感覚だ。お前がくれたんだ」
椅子に腰掛け、羽根を広げたポーズで俺は自分の夢が叶うその瞬間を、自分の命が尽きるその瞬間を待ちわびた。
「13番さん。今、僕の夢は何色ですか?」
俺は掠れゆく視界の中で目を凝らした。
「真っ黒だよ。今まで見たどの夢よりもドス黒い」
星野が筆を置き、俺はゆっくり腰を上げた。月夜に照らされた絵の中の俺は、まるで生きているかのような美しさだった。星野は肩を震わせ、背後に立つ俺を振り返れずにいた。
『夢泥棒の絵を完成させたい』
先刻まで純白だったその夢は、今や見る影もなく真っ黒であった。その夢が今、パリンと割れた。
そしてその瞬間、俺の胸に宿る透き通るような水色の夢が、まるで共鳴するかのように震えて割れた。
「聖一」
「……はい」
「これからも絵、描き続けろよ」
振り返ったその顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
しかしもう、そこには誰もいなかった。
大きな白い羽根が1枚、優しく宙を舞っていた。
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