夢泥棒は死んだよ

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 爽やかな晴天。時刻は午前10時12分。春は息絶え、夏が幅を利かせる今日この頃。青と白のボーダーシャツの少年は、ドロケイに興じる友人たちを横目に1人鉄棒を握りしめていた。 「今日もダメか」  俺は望遠鏡を覗き込みながら呟いた。早くしないと手遅れになるぞ、そう案じたのも束の間–––– 「やったぁ水色! どれにしようかな〜。あ、彼なんて良いじゃないか!」  バサッと翼を広げた831番は、あのボーダー少年の元へと降りていった。地上に着く頃には、奴はボーダー君と同じくらいの背格好の少年へと姿を変えていた。   「お前、名前なんて言うの? 俺はショータ。なあ、あっちの木にデッカいカブトムシがいたんだよ! 一緒に捕まえようぜ!」 「え、カブトムシ? うーん、でも、君の友達は?」  ボーダー君は突然のお誘いに戸惑いつつも、カブトムシに興味津々な様子だ。 「俺夏休みの間だけばあちゃん家に遊びにきてるから、友達いねえんだ。だから、な! 行こうぜ横縞!」  遊ぶ友達がいないと言うショータを可哀想に思ったのか、ボーダー君は握った鉄の棒から手を放した。 「横縞じゃない、ケンジだよ。ねえ、どこで見たの。どれくらい大きかった?」  ケンジは目を輝かせていた。そうして2人で公園の木々が生い茂った場所まで駆けていくと、辺りを数分探し回った。ケンジが声を上げる。 「いたよショータ! ねえ、カゴは持ってきてるの!? ……あれ、ショータ?」  またまたバサッと音を立てて、ショータ改め831番が雲の上へと戻ってきた。その手にはうっすらと水色に光る玉が握られていた。『逆上がりを成功させる』というケンジの夢である。  俺は望遠鏡を覗き込んだ。右手にカブトムシを掴んだケンジがドロケイを終わらせた友人たちに囲まれている。まだキョロキョロとショータを探しているようだが、もう鉄棒には見向きもしない。きっとこの夏休みは、あのカブトムシの世話に夢中になるのだろう。  隣では831番が、今しがた手に入れた夢をシャクシャクと食べている。 「いや〜やっぱり水色は美味しいね! 瑞々しくっていいや」  指についた雫を軽く舐め取りながら、奴はニヤリと俺を見た。 「わざとか」 「最近ずっと覗いていたからね。優しさだよ、入れ込みすぎたら良くないだろう?」 「逆上がりくらいで入れ込むかよ」 「そうかなあ、僕は心配だよ。大事な友人を失いたくはないからね。ねえ、君もこの戯れに少しは付き合ってくれよ。(たま)には気晴らしが必要だろう」  断るより早く、831番は振り返り大声で呼びかけた。 「みんな〜、今日は13番が参加してくれるって! ほら集まって〜!!」  雲の上のあちこちで翼をバタつかせる音がする。めんどくせえなあ…… 「1回だけだぞ」  俺は立ち上がり、握っていた望遠鏡を捨てた。  
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