夢泥棒は死んだよ

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 黒い夢はとにかく苦い。好き好んで喰う奴はいない。俺が黒ばかり喰うのは競争相手が少ないからだ。  なあ、ちょっと夢を思い浮かべてみろ。10は挙げられても30はスラスラと出てこないだろう? それは夢を保有できる数に限りがあるからだ。  黒だらけになると他の奴らが困るのさ。そこで俺が黒い夢を喰って、新しい夢を抱くスペースを作ってやる、夢の入れ替えだ。だから雲の上じゃ俺に偉そうなことを言ってくる奴はいない。例外もいるが。  ところで、俺は翼の生えた姿を人間に見せた訳だが、俺たちのルールを話しておこうと思う。といっても1つしかねえんだけどな。  俺たちは基本何にも縛られない。さっきみたいに本当の姿を晒しても良い。俺もこの間ノリでガキに夢泥棒が何たるかを聞かせてやったばかりだが、何のお咎めもない。  夢を喰うことで相手の寿命を延ばそうが縮めようが関係ない。喰っちゃいけない夢もない。じゃあたった1つのルールとはなんなのか? それは––––  夢を抱くな。  夢を抱いた時、夢泥棒は死ぬ。  俺達には寿命ってもんがねえから、死ぬってのがどんな気分か分からねえ。だからと言って興味も湧かねえ。他人の夢を平気で盗む連中だ、感情なんてもんに左右されてちゃ夢泥棒は成り立たない。  話し過ぎたな。普段は喰うもん喰ったらさっさと帰って寝ちまうから、人間界でどう時間を潰せばいいのか分からねえ。あと2日とちょっと、俺はありもしない白い夢を追い求めなきゃならねえ。  ありもしない、  ありも……  ある。  通りの向かい側、4階建てのビルの2階、カフェの窓際に座る青年。黒い夢に覆われていて分かりづらいが、その奥で確かに光る白い夢。  俺はいつもより大股で歩き出した。
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