夢泥棒は死んだよ

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「画家志望?」 「へ?」  俺はブラックコーヒーを片手に青年の隣に腰掛けた。見た目は変えず、羽根だけ仕舞って。 「凄く上手いから」 「いやあ、それ程でも。ただの趣味ですよ」  青年は照れ臭そうに右の頬をポリポリかいた。手元のスケッチブックには、ここから見える人の行き交いが描かれている。 「ふーん。じゃあ将来の夢は別にあるの? ハタチそこそこに見えるけど」 「えーっと……」 「ああ、ごめんごめん! 急に怪しいよね。私、こういう者です」  差し出した名刺には『画商 黒井夢ニ(くろいゆめじ)』と記されている。 「若い才能を発掘中でね。興味があれば是非、えっと……」 「あ、その、星野(ほしの)です」  星野は少しだけ迷った末に名乗ってくれた。胸の奥では彼の夢が微かに震えている。それは間違いなく白色だった。 「星野君、君の絵とても気に入った! 良ければ他のコレクションも見せて欲しいな。明後日の夜には東京を出ちゃうんだけど、それまでに気が向いたら連絡頂戴。じゃあ私はこれで、邪魔したね」 「あっ、えっと、はい」  黒井の勢いに圧倒される星野。ここは引いた方が怪しまれないと考えた。去り際、店の鏡越しに俺の後ろ姿を見つめる星野が見えた。  彼はきっと連絡を寄越す。831番の悔しがる顔が目に浮かんだ。    
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