夢泥棒は死んだよ

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 こいつは一筋縄ではいかないぞ。舞台は昨日と同じカフェ、俺は頬杖を突いていた。 「夢二さん、聞いてます?」 「えっ? ごめん何だっけ」 「いつから画商を目指されたんですか?」 「ああ。父がコレクターでね、色々集めていたよ。私はその中でも絵画に惹かれたんだ、画商への道は自然にできていたよ」  星野はこんな調子で俺の話ばかり聞いてくる。 「君は画商になりたいのかい?」 「今興味が湧いています!」  ぽこんと1つ黒い夢が現れた。『画商になりたい』という嘘の夢の誕生だ。白い夢は、今やほんの一瞬見え隠れする程度に隠れてしまった。俺は小さく溜息を漏らした。 「あ、ごめんなさい。貴重なお時間を頂いているのに」 「いや良いんだ。でもそうだね、もっと君の話を聞かせてほしいな。夢はあるのかい?」  星野はうーんと考え込んだ。 「なんだろう。絵で食べていけたらとも思うし、全然違う世界を知りたいとも思うし。小さい頃はショートケーキの苺になりたいって思ってました!」 「はは、苺ね。小さい子に人気だよね」  星野は不思議そうに俺を見つめた。言葉のチョイスをミスったか。  どうにか黒を取り除いて白い夢の正体を突き止めようとしているのだが、かれこれ2時間苦戦している。そんな時、背後から声をかけられた。 「夢二じゃないか。こんな所で会うなんて奇遇だなあ!」  睨んだ先にいたのは、ご存知831番だ。今日はショータの坊やではなく、羽根無しの姿でお出ましだ。水とおしぼりを運びに来た女性店員の頬が少し赤らんでいる。星野も芸術品を眺めるかのように、ぼ〜っと奴を見つめている。 「あ、この子が昨日話していた金の卵だね? へえ〜、夢二お前見る目ないんじゃないか?」  奴はテーブルの上のスケッチブックを覗き込んで言い放った。俺は奴を黙らせようとするが止まらない。 「ねえ君。この程度で画家を目指すなんて夢のまた夢だよ。センス無さすぎ。諦めた方がいい、僕らが生きる世界ってもっとずっと厳しいんだ」 「おい! てめえ……」  ぽとん、という音がした。星野の胸元から1つの光が揺らいで落ちた。 『絵で食べていけたらなぁ』  水色と黒が混じったような、群青色の夢だった。  え、そっち?  喧嘩勃発といった空気だったのに、俺と831番は床に落ちた夢から星野の胸元へと、ゆっくり目線を移動させた。そこにはまだ、爛々と光る白い夢が宿っていた。 「ごめん星野君、今日はここで。明日時間あるかな? また連絡する」  そう言い残して831番の腕を掴んで店を出た。オーダーを誰が受けるかで揉めていた女性店員達が恨めしそうに俺を見た。  
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