どこかにイケメン落ちてないかな

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 楽しかった。軽く一杯よりは飲んでしまったけれど、翌日に差し障らない程度に節度を保ったいい時間だった。井上くんと浦野さんもいい人たちで、今のところどちらかとどうなるとかはないけれど、異性というのはいい意味で緊張を持たせてくれる。“男性の意見”も聞かせて貰えたし、友人も多いみたいで「フリーの男には声かけてみるわ」って言ってもらえた。  浦野さんは年上の先輩だけど、仕事後は無礼講を許しているらしい。部署が違うから友達に近い関係のようだ。  社会人によくあるパートナーとの出会いの代表格、“友人の紹介”というのはこうやって生まれるのかもしれないと期待に胸が膨らんだ。ふんふんと鼻歌が出る。前は会う人会う人幸せそうに見えたけど、今はそんなこともない。単純だな、私は。どこかにイケメン落ちてないかなーなんてバカなことを思いながら歩く。  ――いつもの邸宅前の道に差し掛かると無意識にサモエド犬を探すが、さすがにこの時間にお散歩してるはずはないよね。    ……あの飼い主さんとももう少し打ち解けたらどこの婚活サイトがお勧めか聞いてみようか。いや、さすがにそれはな。気になるけど。すごく気になるところだけど……。うーん。気にな……  私の目があり得ない何かを捉え、心臓が跳ねた。  「ひっ」  脳は驚きでフリーズすると、情報をぶつ切りで拾うらしい。  人が倒れてる!   こんなとこで!  心臓がバクバクして後ずさった。恐怖の方が強い感情だった思う。パニック状態だった。人通りの少ない路地。ここにいるのは私だけ。  死んでるの!?  どうしよう、どうしよう、どうしよう!救急車!? 警察?  心臓がおかしい。膝はガクガクと震え、スマホを持つ手はブルブルと震えた。呼吸はハッハッと短くしか出来なかった。きゅ、救護しなきゃ。そう思って近づこうにも怖い。人通りの多い所に行って電話をかけよう。ああ、一度だけ救急車を呼んだことのある経験が思い出された。……確か、おおよその年齢、性別、状態、場所は必要な情報だ。怖いながらもその人の顔をのぞきこんだ。幸い街灯の下、座り込む形で倒れてるお陰で良く見えた。胸が上下している。良かった、生きてる。  ……あれ?この人……。ここの家の、サモエド犬の飼い主さんだ。街灯のぼんやりとした光の下、白く浮かぶ顔は知り合いとも言えない人だった。だけど、知り合いだとわかればいくらか気持ちがしっかりした。助けなきゃいけない。
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