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「申し訳ありません。ご迷惑をおかけして。ああ、みっともないな」
「い、いいえ。驚きましたが、こちらが大袈裟にしてしまって」
どうやら彼は酔って寝ていただけだったようだ。
「いえ、本当に僕が悪いので。お手数をおかけしました」
「ご家族に連絡が付かないようですが……」
「さすがに、恥ずかしいので、逆に良かったです。大丈夫です。酔いもさめてきましたし一人で帰れます。これ、いつ帰れるんだろう」
その人は点滴のつながった腕を見ながら言った。私もチラリと腕時計を確認する。もう、夜も相当遅くなっていた。
「本当にすみません。あの、どうぞお帰り頂いて。後日またお礼に伺いますので」
「いえいえ、こちらが勝手にしてしまったことにお礼なんて」
私はぶんぶんと手と首を同時に振った。とにかく、私がいても仕方がないし気まずそうなので帰ることにした。
「あ! すみません。厚かましいお願いなのですが、きーに、まだご飯をあげていなくて……」
「は、ええ、それは大変。奥様は……? 」
「しばらく帰らないので、お願い出来ないでしょうか」
「え、でも……」
「……信用、してます」
私は気づけば彼から自宅の鍵を受け取っていた。
私は、救急車って行きは連れてきてくれるけど帰りは送ってくれないんだもんな。と、当たり前のことを思いながらタクシーに乗り込んだ。
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