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驚愕と苦痛に見開かれた、大きな双眸。理解も覚悟も出来ないまま、ただ奪われて生を終えたのだろう。
これまで見てきた、数多の被害者と同じように。
「……すみません。寂しい思いをさせますが、もうすぐ仲間が迎えに来ますので。もう少し、辛抱してくださいね」
右手でそっと触れて、柔らかな瞼を閉じる。
手を退けると、陽光を受けた微細なラメが、動かぬ彼女の代わりにキラキラと瞬いた。
「必ず捕まえますから」
そう告げて、立ち上がった俺は今度こそ駆け出した。
点々と落ちる血痕は、途中で途切れてしまっていた。
が、恐怖に顔を歪めて走ってくる人々が、代わりに"ソイツ"へと導いてくれた。
短髪の、若い男。おそらく、歳は二十代半ばといった所だろう。
ジャケットもスラックスも、靴に至るまで全て真っ黒で、重力に逆らう銀髪やその肌の白さをさらに際立たせている。
その中で唯一、二つの瞳だけが燃えるような赤を――否、口端から伝う鮮紅の跡が、常人ならばあり得ない"吸血"行為の証明として、アスファルトに跡を作った。
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