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「僕らは静に縛られた彼らと違って、己で決断し、実行するだけの機能を持つ。それはとても幸せなことで、とても残酷なことだ」
柔らかな風が枝を揺らして、薄色の花弁を吹き上げた。
今まさに生を終えた命が、暖かな陽射しを喜ぶように舞って、地に落ちていく。
その姿に重なるのは、俺に「生きてね」と遺し空に跳んだ、姉さんを彩る写真たち。
アスファルトに打ち付けられた姉さんは、自身から流れた血液と、その手で収めた愛おしき日々の記録に飾られて、白を手放した。
「……栃内さん」
言いようのない喪失感にかられた俺は、目の前の存在を繋ぎとめるようにして、彼女の名前を呼んだ。
「明後日に、必ず来ます。今度は団子でも手にしながら、お花見をしましょう」
誘いかけるというより、宣言に近い。
告げた俺に、栃内はどこか嬉しそうに、微笑んで頷いた。
「明後日、晴れるといいですね」
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