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望まぬ会遇
麗らかな春の青空を切り裂く悲鳴。
我先にとなりふり構わず逃げ惑う人々を横目に辿り着いた"現場"に、息を呑んだ。
無機質なアスファルトに転がる、薄紅色のワンピース。女性だ。顔には柔らかなアッシュピンクの髪がかかっていて、表情は伺えない。
が、明らかな異常事態であることは一目瞭然だった。
季節を写し取ったような花柄の生地が、瞬く間に鮮血に染まっていく。
「……くそっ、タイミング悪すぎだろ」
俺――麻野巧人は抱えていた紙袋を放り投げて、女性の元へと駆け寄った。
後方で、重みを受けた路上が鈍い音をたてたる。
それもそのはず、あの中には三日ぶりに買い込んだ食料品を詰め込んでいた。
勿体ない。思ったのは一瞬で、即座に切り替えた俺は「すみません」と断りをいれ、動かない彼女の首元を確認した。
「……やっぱりな」
首筋に、"吸血痕"。被害にあってから、そう時間は経っていないようだ。
その肌も、線を描き落ち行く血潮も、まだ温かい。
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