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栃内が視線を下げる。見つめているのは、自身の指先。
と、白い掌に、桜の花びらがひらりと舞い乗った。
「桜、ちょうど綺麗な時に見れて良かったです」
「僕もだ。日本の桜は初めて見るが、特別な人と共有できるとは、実についている。なんとも美しいな」
「本当に。これでちょっとしたお菓子でもあれば、もっと楽しめたんでしょうけど」
「ああ、それは知っているぞ。たしか、『花より団子』というやつだろう? 僕から言わせて貰えば、花もスイーツも両方楽しめるのだから、『花も団子も』でいいと思うのだがね」
「ふふっ、そうですよね。どっちか一方じゃなくて、両方あったほうがより楽しいですもんね」
……これは、売店で何か袋菓子でも買ってきたほうがいいのだろうが。
いやだが、敷地内とはいえこんなフリースペースで、充希から目を離すなんて出来ない。
(なんといっても、あの手紙の件があるしなあ)
店先の防犯カメラに記録されていたのは、白いパーカーのフードを深く被った、やせ型の人物だった。
投函時、微かに映った骨格からして、おそらく男。
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