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「とても残念なお話なのですが、明日は一日がかりの検査を行うので、面会は難しいと言われてしまって……」
「おや、そうなのかい?」
踊る花弁を追いかけていた手を止めて、充希が疑問の目を向けてくる。
「日本では、"VC"化から一週間を節目として、精密検査を行っています。もう、そんなに経ったんですね」
「ええ、本当に……早いものですね」
呟きながら、栃内が桜を見上げる。
「この桜は、いつまで生き続けるんでしょうね」
「どうだろうか。百よりももっと長いかもしれないし、あっさり明日にはその命を終えてしまうかもしれない」
「さすがに明日ってことは……」
指摘した俺に、充希は「そんなことはないさ」とおどけたように肩を竦めて、
「例えばそうだな、雷にでも好かれてしまえば、この木は明日にでも命を終えるだろう。僕らだって同じさ。いつどこで、不慮の事故に巻き込まれるともわからない。誰もが等しく、定量的に数字を重ねていけるだなんて、雲を掴めると信じている子供のような虚構だよ」
ただ、一つだけ。充希はそう言って、桜を見上げた。
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