28人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
優しきホームズごっこ
こうして二日後の再訪を約束した俺達は、翌日、久しぶりに朝から相談所を開けていた。
とはいえ、元より繁盛しているとは言い難い店だ。
充希は家に用意されていた小説本の一冊を片手にソファーで寛いで、俺はカウンター席で本部から受けった資料を確認しながら、コーヒーを味わっていた。
栃内は順調に回復しているようだ。自傷行為もなし。
このままいけば、予定通り一週間後には、退院できるだろう。
仕事は彼女の言葉通り、円満に退職していた。珍しいパターンだ。
退院後は、いったい何をして過ごすつもりなのか。
浪費家ではないようで、暫く働かずとも問題ないくらいの貯蓄はあるようだから、心身のケアも兼ねてのんびりするのかもしれない。
(……残り一週間か。そろそろ、あと一押しがほしいな)
日々の様子からして、まだ不安定な部分はあるが、前を見据えてくれているのだと感じる。
ただ、"大丈夫"だと確定するだけの、裏付けがない。
彼女には"未練"が見当たらないからだ。
近しい人や、大切なモノ。
そういった、"手放せない"なにかがあれば、それは"生"への執着となる。
「……充希さん」
最初のコメントを投稿しよう!