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俺の返事を待たずして、トレイを凝視しながら充希が両手で持ち上げる。
慎重に、慎重に。周囲へと神経を張り巡らせながら運ぶ様は、まるで幼子が手伝うそれで、見ているこちらがハラハラする。
「例えばここで僕がうっかり失敗してしまった場合、コーヒーの到着まで数秒から数分へ変わってしまうからね。もう少しの辛抱を!」
「いいのよ、転ばないでね。可愛らしい助手さん」
一歩一歩、すり足のようにして進む充希。
問題なくやりと遂げてくれるよう祈った俺は、軽く手を洗いタオルで水滴をふき取り、彼女へと視線を戻す。
「ウチが"VC"専門だって知った上でお越しいただいたのなら、ご依頼内容は"VC"関連で間違いなさそうですね」
俺は名刺を手にソファーへ向かい、彼女の対面のソファーに腰掛け、机上を滑らせながら差し出した。
「自己紹介が遅くなってしまい申し訳ありません。所長の野際です」
「僕は充希だ。そしてこっちがお待たせのコーヒー。それと、ミルクに砂糖。どうだい? 全員無傷で無事に到着だ」
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