もう一人の"家族"

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「訳がわからないでしょう? そんなことして、退院後はどうするのって訊いても、大丈夫の一点張り。このまま行きたいんだって言うだけで、具体的なことは何も教えてくれないのよ。ならせめて、大切なモノだけでも持って行きなさいよって言っても、(かたく)なに帰らないって……。おかしいわよ、そんなの。あの部屋には、あの子が大事にしているモノだってあるはずなのに」  だからお願いよ。  必死な双眸が困惑に滲む。 「こんな仕事をしているくらいだもの、融通の利く警察官の一人や二人いるでしょう? 会わせろなんて言わないわ。お願いだから、あの子が何処へ行こうとしているのか、真意を訊いてきてちょうだい」 *** 「家を、手放したそうですね」  窓際の花瓶に新たな花を活けていた栃内が、手を止めて振り返る。  彼女自身が病院内の花屋で購入してきたというそれは、以前充希が贈った花と同じバーベナだ。気に入ったのだろう。  今日は生憎の雨で、花見の約束は延期だ。  淡く霞んだ光を携えた窓を背に、栃内が真っすぐに俺を見る。 「どこで、それを?」
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