もう一人の"家族"

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 確実に死にたいのならば、確実に"助からない"方法を。きっと栃内も心得ている筈だ。  今の彼女からは、一縷の望みに賭けて自傷行為を試すような雰囲気は一切感じられない。 「教えてはくれないんですか?」 「はい、まだ内緒です」  そう言って栃内は、茶目っ気たっぷりに唇に指を立てた。 (……何処にあるかはわからないけど、行きたい場所か)  これがきっと、彼女をこの世界に繋ぎとめる"未練"なのだろう。  自分探しの旅にでも出るのだろうか。もしかしたら、この国を出て。    「……でも、やはり一度家に帰られてはどうですか? 必要なモノもあるでしょうし」 「必要なモノは、全部揃ってるんです」  栃内はベッド横の、テレビ台に視線を流した。上部の棚部分には、通勤に使っていたのであろう黒い鞄が収められている。  事件に遭遇したあの時、彼女の側に横たわっていた鞄だ。 「大事なモノは、持ち歩くタイプなんです」  曇りガラスの窓から差し込む温かな日差しが、彼女の赤い眼をきらきらと輝かせた。
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