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「おっと失礼。いやなに、せっかく花も綻ぶ麗しき笑顔を見せてくれたんだ。なんとしてもその期待に応えたいと思ってしまってね」
ご機嫌に笑みながら、充希が俺を見遣る。
「僕に出来ることは何でもしよう。好きに命じてくれ」
……よくもまあ、いけしゃあしゃあと。
果たして今行われたこの流れの、どこからどこまでが充希の予定調和なのか。
考えるだけで頭が痛くなるので、俺は思考を放棄した。
事務所へと帰宅後、早速と八釼に交渉を持ちかけると、「そういう事情ならば」とすんなり許可が出た。ちょっと面食らったくらいだ。
ともかく俺は鐘盛に電話をかけ、"今後の詳細は出立の時まで秘密だ"と言った栃内の言葉と、一日に一度だけ許された通話の件を説明した。
鐘盛は、泣いていた。
元より少し掠れた声をさらに嗄らして、絞り出すように「ありがとう」と言った。
「あの子の意志を知れただけでも、じゅうぶん奇跡なのに、また声が聴けるなんて……。本当に、ありがとう」
鐘盛への報告後、程なくして、八釼から連絡が入った。
栃内には、担当医から通話許可の伝達をしてもらったという。
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