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「……栃内さん、通話許可に泣いて喜んでくださったそうですよ」
「そうか。巧人の手腕と寛大なその上司に感謝だな。あのご婦人も大層喜んでいたようだし、実に上手くいった」
「……ええ、だからです」
先に出来上がった一杯を、充希の眼前に置いた。
「あんなに喜んでくれるくらい"電話"が嬉しいのなら、何故、栃内さんは退院後に鐘盛さんと会わないんですかね。あの口ぶりだとどこか遠い地へ……なんなら海外にでも飛びそうですけど、それにしたって、これまでの挨拶も出来ないほど急ぎの旅なんでしょうか」
新たな一杯が出来上がる。
黒い水面から俺を見上げるのは、なんとも不安げな表情の男。自問自答するには、些か頼りない。
対してゆったりとコーヒーを嚥下した男は、常と変わらない声色で、
「そうだなあ。僕が想像するに、決心が鈍るんじゃないか」
「っ、決心」
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