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「え? やっぱりお茶よりもコーヒーが良かったですか? なら俺が……」
「いや、そうではないのだよ。これは僕が行かなければならないし、僕の身体無しには成し遂げられない」
充希はすっくと立ち上がると、
「なんだったかな。日本ならではの言い回しが……ああ、そうだ。"花を摘みに行く"というやつだ」
「……ああ」
つまり、トイレか。
確かにそれは、俺には変われない。
(ほんと、いちいち回りくどい……)
胸中で嘆息しつつ、俺は即座に思考を巡らせる。
充希を一人にはしたくない。が、患者である栃内をこの場に置いて、充希についていくというのも妙だろう。
俺達が背にする院内の壁はガラス張りで、ここからでも受付と待合、その傍に設えられたトイレの入り口が確認できる。
だがやはりせめて……安全確保だけでも。
「……充希さん、場所知らないですよね。案内しますので、すみませんが栃内さんは少しお待ち頂いても――」
「いや、その必要はない。あの受付横にマークが見えるからね。いやはや、なんともわかりやすくて助かる」
「…………」
(アンタ、護衛対象だってわかってんですか!?)
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