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そんな非難を込めて見つめると、充希は「すぐそこだよ。見えるだろう?」と肩を竦める。
ええ、はい。わかってるんです。わかってても必要なんですよ!
そう叫びたい衝動をぐっと堪えて、俺は奥歯を噛み締めながら「……わかりました」と了承した。
「まったく、巧人は心配症だな。では、行ってくるとするか。麗しのセニョリータ、この美しいひと時から離れる無礼を許してくれ。ついで許されるのなら、僕の桜餅が里帰りを望まないよう、しっかり見張っててほしい」
「はい、任せてください」
「いいから、早く行って帰ってきてください」
「もちろんだとも。おおせのままに!」
意気揚々と中庭を抜け、院内へと戻っていく充希の背を、どこか疲れた心地で見送る。
「すみません、栃内さん。あの人ちょっと……その、色々と危なっかしい人で」
充希の姿を目で追いながら、謝罪を口にする。栃内は「いいえ」と楽し気に笑みながら、
「お二人を見てると、息が出来るというか……心が晴れるんです。他のことは全部忘れて、ただ純粋に楽しくて……。あ、笑い者にしてるってことじゃないですよ?」
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