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「わかってます。……そう言ってくださると、助かります。良くも悪くも、俺達が"変わっている"のは自覚があるので……」
その時だった。
充希の前に、ひとりの人物が立ちふさがった。白いパーカーを目深にかぶっていて、顔は見えない。が。
見覚えのある体躯に、ぞわりと肌が粟立つ。
(――まずいっ!)
充希が不思議そうな顔で立ち止まる。
「充希さん!」
俺が立ち上がったのと、充希の首にそいつの腕が回ったのは、ほぼ同時だった。
充希の頬横で、院内の明りを受けたナイフがきらりと光る。
蜘蛛の子を散らすように、院内の人々が驚愕と恐怖に声を上げ、逃げ惑う。
「――みつきさんっ!」
隣で悲痛な叫びをあげた栃内に、
「すみません栃内さん。病室前の警備員を呼んできてもらえますか。俺が時間を稼ぎます」
口早に告げた俺は、院内に向かって駆け出した。
後ろから「……はい!」と絞り出した声がする。彼女だって怖いだろうに、申し訳ない。
だが今は彼女を信じて託すしかないし、彼女なら、きっと大丈夫だという安心感があった。
――だって彼女は、"吸血"犯を追った人だから。
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