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院内に通ずる自動ドアをこじ開ける。
「キミ! とにかく落ち着いて!」と及び腰で声を張る"本物の"警備員の肩を掴み、
「すみません。いったん任せてもらえますか? あの捕まってる人、ウチの者でして……」
「ああ、巧人!」
俺に気づき、嬉し気な声をあげた充希をジト目で見遣る。
ほら、言わんこっちゃない。
そんな意図を正しく察したのか、充希は弱ったような笑みで「すまなかったよ」と肩を竦めた。
「……このフロアの方々を、外に誘導頂けますか。上の方々は病室に」
俺の指示を受けた警備員は数度頷き、不安げながらも無線を片手に必死に誘導を始めた。
犯人は避難を始めた周囲の動きを把握しているだろうに、ナイフを持つ手で充希を拘束したまま、微動だにしない。
……つまり、標的はこの病院じゃない。
「巧人、巧人。キミが僕へ抱いた失望は痛いほど理解できる。挽回のチャンスをくれないか? いったい僕は、何をすればいい?」
「黙って大人しくしててください」
「よし、任せてくれ」
決意の眼で、充希が口を結ぶ。
まったく、こんな犯人めいた台詞を自分が言う日がくるとは思わなかった。
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