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と、青年は目だけを充希に向けて、少し考える素振りをしてから俺を見た。
「……この人は、餌です。アナタを誘き出すために、捕まえました」
「なら、余計に……」
「でも」
青年が、にたりと口角を上げる。
「俺、気付きました。気づいちゃったんですよ。俺はただ、アナタに死んでほしいだけじゃない。アナタには、"大切なヒトを失う痛み"を知ってもらってから、絶望して、絶望して、まずは心をぐちゃぐちゃ潰してから、死んでほしいんです」
青年がナイフを握る腕に力を込めた。艶めく刃が、充希の喉に押し当てられる。
目的は理解した。――それなら。
俺はベルトの内側から、携帯式の小型ナイフを取り出した。これまで何度も窮地を救ってくれた、入隊時からの相棒だ。
回転させて刃を出した俺に、青年が小馬鹿にしたように鼻をならす。
「そんなモノ出してどうするっていうんです? アナタが突っ込んでくるよりも、僕がこの人の喉を掻っ捌く方が早いでしょうに。……ああ、もしかして、ナイフ投げの名人とかなんですかね?」
「……残念だけど、どれも違うかな」
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