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俺はナイフの刃を、自身の首に押し当てた。
同時に、青年が「なっ……!」と頬を強張らせる。
「キミの目的は、僕の心をズタズタに壊してから殺すことだって言ったね。なら、僕は自分で先に死のう。自分の決断に誇りを持って、大切なその人は自分の手で守れたんだと、幸せに浸りながら」
「――そんなの、ハッタリだっ! 出来るもんか!」
「充希さん。最期の最期まで巻き込んでしまいまして、すみませんでした。それと、あなたと一緒に働くのは、苦労も多かったですけど、なんだかんだ楽しかったです」
「巧人……」
「ふ、ふざけるな! そうだ! アンタが自分で死んだって、僕はコイツを殺す! コイツはアンタのせいで死ぬんだ!」
「例えそうだったとしても、先に死んでいる僕には知りようがない。僕の誇りは濁らないよ。……充希さん、どうかこれまでのことは早く忘れて、自由に。俺がここを離れた後は、全てお任せします。……足掛け三年。いいようにしてください」
これが最後だ。
そう示すように、俺は未練や恨みなど微塵もない、清々しい微笑みを青年に贈った。
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