28人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
日本人のそれとも異なる漆黒の髪は柔らかな癖があり、瞳はこれまで出会ったことのない、宝石のような透ける紫色をしている。
なんというか、中性的で美しい面持ちをしている。身なりを少し変えれば、少女でも通ってしまいそうな。
彼は面食らっている俺達などお構いなしに、ガラガラとキャリーのタイヤを鳴らして近寄ってきた。
「なにやらお取込み中のところ邪魔してしまって、すまないね。キミを見たらつい居ても立ってもいられず……。そう、キミだよキミ。"VC"の青年。いやなに、すぐにすむ」
彼は俺達まであと数メートルという所で歩を止め、
「僕の"アモーレ"になる気はないかい?」
「……………………は?」
たっぷりと間を置いて、再び重なった声。
いやだって、仕方ないだろう。俺の足下には血を流し、意識のないまま倒れる女性。おまけに未だ牙を剥き出しにした"VC"を前にして、こともあろうか、"アモーレ"になれ?
呆気の表情で硬直している俺達をどう捉えたのか、彼は「おや?」と不思議そうに小首を傾げ、
最初のコメントを投稿しよう!