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「キミにとってあの男が大切だったのは、わかった。だが彼が行った"吸血"は、殺人と同等……いや、それ以上の犯罪だ。人格がどうであろうと関係ない。彼は非道なる身勝手な加害者で、彼女たちは被害者だ。俺を逆恨みするならともかく、彼女達を悪のように言うのは許さない」
「いた……っ! お、折れ、る……!」
どうして。どうして何もかもを奪われた側が、さも悪のように言われてしまうのだろう。
脳裏に、「あの女が悪いんだ」と喚いた、思い出したくもない醜男の影が浮かぶ。
(……これだから、人間は嫌いだ)
善も悪も、身勝手で押しつけがましい。
嘘も裏切りも、自身の利益の為なら、息を吐くように平然とこなす。
(俺達はただ、支え合って、当たり前の日常を当たり前として、過ごしたかっただけなのに)
「――キミは随分と、彼を愛していたのだな」
「……っ」
歌うような声に、思考が途切れる。顔を上げると、慈愛を滲ませた双眸で充希が青年を見つめていた。
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