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え、と。小さく漏れ出た声は、青年のものだった。
彼は理解に苦しむように数秒の間をおいてから、疑念に掠れた声で、
「……一番の"悪"は、蓮を救えなかったコイツでしょう? それともやっぱり、あの女の血が――」
「違うさ」
充希は道を教える善人のごとく、純真な眼で人差し指を青年に向けた。
「キミだよ。彼が死んだのは、キミのせいだ」
「なっ……!?」
俺の下で、青年の身体が強張った。
そんな彼の衝撃などお構いなしに、心底不思議そうな顔で充希が言葉を続ける。
「なぜそんなにも彼を愛しているというのに、こんな簡単な"悪"に気づかない? キミの愛おしい彼が"吸血"さえしなければ、彼はまだ生きていた。キミがこうして身を費やすことも、光ある世界を失うこともなかった。全てはキミが彼の"吸血"を止められなかったがために起きた"悲劇"だ。そうだろう?」
「違う僕は……っ! 僕は蓮の"吸血"の場にいなかった! 止めようにも止められるわけーー」
「そう。キミは彼の"吸血"の場に、いなかった。もう一度言おう。いなかったのだよ、キミは。彼のどこにも。キミは彼の"未練"にすらなれなかった」
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