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「!」
「一度でも"吸血"を行えばどうなるか、彼は知っていた筈だ。キミとは引き離され、高い塀の中。キミの曲など歌えない。仮に出てきたところで、キミが待っているともわからない。"人間"というのは、彼らと違って脆いからね。それでも彼は"吸血"を選んだ。衝動的な一度だけでは止まらず、自らの意思で、数度」
「――っ!」
「理解したかい? キミは彼を止められなかった。キミが彼の"未練"になれていれば、彼は"吸血"を思い留まった。死なずにすんだのだよ」
硬直したまま全身を震わせる青年の額に、驚愕とも絶望ともとれる汗が伝う。
だが充希はにこりと、場違いなほど無邪気な笑みを浮かべた。
「さて。キミの愛おしい彼を殺した"ヒト殺し"は、誰だろうね?」
「……あ」
青年が、か細い声を漏らしたその時、
「――そこまでだ!」
「!」
轟いた怒号に、視線を投げる。清だ。
三階の手すりを両手で掴むと、全身のバネを使って軽々と乗り越え、俺達のいる一階に難なく着地した。
あっという間に距離を詰めた清によって、俺の拘束していた青年の手首が奪い取られる。
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