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振り返ろうとした俺を、彼女が小さく静止した。
ジャケットの内ポケットから隊員証(警察手帳と似た形状だ)を取り出し、絆創膏を抜き出す。と、一歩を踏み込んで、
「……あまり、無茶をしないでください。"先輩"」
首筋に、そっと貼り付けられた感覚。小さな呟きを残し指を引いた彼女は、どこか寂しげに瞳を伏せると、背を向けて隊員たちへの指揮に戻っていった。
頼もしい背中に胸中で別れを告げた俺は、今度こそ充希に振り返り、
「いきましょうか」
「ああ。……彼女もまた、熱烈な女性のようだな。それに随分と用意がいい」
「ええと……面倒見がいいんですよ。本当、ありがたい限りですね」
栃内の病室に戻ると、部屋前には別の警備員が立っていた。
江宮と一緒に来たのだろう。俺達のことは心得ているようで、「相談屋です」と告げると中に入れてくれた。
「野際さん! 充希さん! よかった、ご無事だったんですね……!」
駆け寄ってきた栃内の瞳は潤んでいる。
やはり随分と心配をかけてしまたようだ。当然か。"普通"の人ならば、あんな襲撃現場に立ち会うことなど人生で一度あるかどうかだ。
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