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「強烈な記憶は無意識にも刻まれる。ましてや、自身が経験したとなれば尚更だ。それはさておき、見てくれ! この通り、幸いにも団子は全て無事だ。あいにく下は"混みあっていて"降りるには難しいが、幸い、ここにはバーベナがある。少々元気がなくとも美しさには変わりない。気分転換にも、仕切り直しといこうじゃないか」
いそいそと丸椅子を並べ始めた充希に、気を取り直したような顔で栃内が「そうですね」と頷いて加勢する。
彼女の気が紛れるのなら、俺に止める理由はない。
窓際に置かれた花瓶に向かって三人で横並びに座り、団子と共にとりとめもない会話を舌に乗せる。
ささやかながらも穏やかな"花見"。
そうしてついに、それぞれが最後の一本を手にした時だった。
響いた声はふと漏れ出たようで、確かな決意を含んでいた。
「……あの人は、"N"だったのに。どうして、あんなことを……?」
訊ねられたのは、あの犯人のことだろう。充希が俺に視線を投げる。
栃内にも関係のあることだ。とはいえ、彼女が望まなければ、話すつもりはなかった。
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