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串を再び手中に戻し、袋から右手を引き抜いた充希が俺達の眼前でそっと開く。
柔らかな薄紅色の、花弁がひとつ。
「さくら……」と呟いた栃内に、充希は「ふふっ」と頬を緩めて、
「こんな風に追ってくるなんて、随分と情熱的な花だな。僕らに置いていかれたのが、随分と寂しかったようだ」
「……ただ紛れ込んだだけですって」
「巧人は相変わらずドライだなあ」
けらけらと笑う充希。「……あの」と栃内が声をあげた。
「その花びら、貰ってもいいですか?」
「もちろん。キミの望むままに」
充希の掌からそっと花弁を摘まみ上げた栃内は、胸中から湧き上がる感情を抑え込むようにして「ありがとうございます」とその手を胸に抱き寄せた。
写真を抱え込んだ姉さんの、飛び立つ間際の姿が重なる。
いま、目の前の彼女の瞼裏に浮かんでいるのは、"置いていく"鐘盛の姿だろうか。
それとも、"置いて行った"、家族の姿か。
(……己が正しいと思い選んだ道が、そのモノにとって"正しい愛"、か)
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