哀しき復讐と未練

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 確かに、充希の言う通りだ。"置いていかれた"人間には、途方のない無力感に反して、無数の選択肢が用意されている。  あの男は、その中から"俺に復讐する"という選択肢を選び取った。  そして俺もまた、紛れもなく自身の意思で、今の生き方を選択した。  ならば栃内が"鐘盛に会わない"と決めたのも、彼女の選択なのだろう。  彼女の"愛"がそれを"正しい"とするのなら、俺は、このまま彼女を見送ってあげるべきで――。  栃内の眉間には、微かな皺。  その胸中に隠された真意は見えないが、陽光に透ける桜の花弁は、ほんの一枚でも美しかった。
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