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充希がパチリとウインクを飛ばすと、栃内はくすぐったそうに「よかった。お二人にそう言ってもらえて、安心しました」と笑う。
なんというか、やっぱり今日はいつもより明るい。
いい傾向だ。これならきっと、明日も大丈夫だろう。
微かな安堵を胸に着席した俺は、充希が注いだシャンパンジュース入りのコップを掲げる。
「では、栃内さんの退院祝いと旅の成功を祈って。以前お約束したカツ丼の件は、この近くで寄れる店を探しておきますね」
同じくコップを軽く掲げた栃内が、ふと表情を変えた。
口角を上げ微笑むのに、その目はまるで、泣き出しそうな。
「はい……。お二人とも、本当に……本当に、ありがとうございました」
窓際のバーベナと、揺れるシャンパンに、彼女の唇。
やけに鮮やかな薄紅色が、妙にあとを引いて鼓膜に焼き付いた。
自室の扉が音を立てたのは、風呂も済ませ寝る前にと明日の段取りを考えている時だった。
叩く人物は一人だけだ。案の定、「はい」と返事をすると、「すまない、今いいだろうか」と充希の声がした。
「コーヒーですか?」
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